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Top > Column > vol.02 緑のある暮らし

緑のある暮らし

少し想像してみてください。

たとえば街中に同じ広さの土地が2つあったとして、それぞれに家を建てたとしましょう。1軒は、法律で許されるギリギリまで敷地を利用して、家をできるだけ広くしました。庭はあきらめましたが、大きくて立派な家ができました。もう1軒は、家の周りに庭のスペースをとりました。家の床面積は削られましたが、樹木や草花を植えることができました。

さて、10年後……。どちらの佇まいがより美しく見えるでしょうか?

敷地目いっぱいの家では、窓から外を眺めても隣家か道路しか見えません。外からの視線が気になるため、昼間もカーテンを引いています。家の壁には日差しや風雨による傷みがちらほら。

一方、庭を設けた家は、シンボルツリーとして植えた木が大きく生長し、窓辺に気持ちよさそうな木陰をつくっています。アプローチを彩る草花は訪れる人を歓迎し、裏庭の雑草や雑木も住まいに陰影と奥行きを添えています。

さて、どちらの家がより豊かに見えるか、もうおわかりですね。

「家の面積を削ってでも庭をつくるべき」というわけではありません。

ただ、皆さんがこれから家を建てようとしているなら、建物のことだけに固執するのではなく、庭や植栽のことも考えて計画した方が、暮らしははるかに豊かで楽しいものになる、ということを知っておいてほしいと思います。

家を建てるとき、ほとんどの人が「できるだけ広い家に」と願うでしょう。限られた敷地をいかに有効利用するか、床面積をどう捻出するかに意識は集中します。けれども、現実の生活が建物の中だけで完結するわけではありません。

たまたま前を通りかかった竣工間近の素敵なお宅が、なぜだか殺風景に見えたりしたことはありませんか? もしかするとその理由は、家の周囲に緑や庭がまだ出来ていなかったからかもしれません。どんなに立派な豪邸でも、その周りに木や草花が全くなければ、殺風景で居心地の悪い貧相な家に見えてしまうものです。その逆で、たとえ家そのものは年季が入り、小さかったとしても、豊かな緑に囲まれ木々の陰に見え隠れするような佇まいをしていれば、そこには自然と潤いや品性が現れて、見る人、訪れる人をほっとさせてくれるでしょう。

せっかく家を建てるなら、そうした穏やかな表情を湛えた家にしたいもの。一度、家を建ててしまったら思う通りの庭をつくるのは難しくなります。住まうほどに、時が経つほどに魅力が増す「家庭」のために、ぜひ設計段階から庭のことを考えてみてください。

雄大な山並み。さわやかな空気と澄んだ水。新鮮な野菜や豊富な果物。ここ信州の最大の魅力は美しく豊かな自然といえるでしょう。植物たちがいっせいに芽吹く春。強烈な日差しの中でも一歩木陰に入ればすっと汗が引く夏。米、リンゴ、ぶどう、きのこなど、さまざまな恵みが結実する秋。これら豊かな自然をもたらしてくれるのが信州独特の気候です。寒暖差の大きな信州の気候は、庭づくりにもうってつけ。この恵まれた環境を生かさない手はありません。

ひと言で庭といっても、ライフスタイルや年代によってさまざまなプランが考えられます。窓からの眺めを楽しむのか、子どもやペットを遊ばせたいのか、ガーデニングを楽しみたいのか、自分でつくった野菜を味わいたいのか……。

いずれの場合も、大切なのは自分のライフスタイルや趣味嗜好に合った庭を計画することです。忙しくて手入れの時間が取れない人や、土いじりが苦手な人が無理やり家庭菜園をつくっても、そのうち世話をするのが苦痛になり、やがては放置することになりがちです。背伸びせず、自分らしい庭づくりを考えましょう。

たとえば、仕事や家事に追われている子育て世代のファミリーなら、シンボルツリーを1本決めて植えてみるだけでも違います。これならさして場所も取らず、手入れも楽。家族みんなで相談して選んだ木が年を重ねるごとに生長し、緑の葉を茂らせ、美しい花を咲かせ、やがて実を結ぶ。たった1本の木でも、季節の移り変わりを教えてくれたり、そこに集まる虫や鳥たちを観察したりすることもできます。うまく実がなれば収穫の喜びを味わうこともできるでしょう。そうして木は、大切な家族の思い出とともに生きつづけることになります。

セカンドライフを楽しみたい方なら、家庭菜園は、育てる楽しみと、味わう楽しみ、そして人を喜ばせる楽しみが叶い、まさに一石三鳥。菜園といっても、最初は小さなスペースがあれば十分です。丈夫で育てやすく場所も取らないハーブや夏野菜などから始めてみるのもいいでしょう。キッチンからちょっと庭先に出て野菜を摘み、料理に添えたり、帰省した子や孫に自分の育てた野菜を振るまう。そんな採れたてを味わうしあわせが毎日の食卓を豊かに彩ってくれるはずです。

庭の緑は見るものの目を楽しませ、心を癒し、体を健やかに保ってくれると同時に、室内環境を心地よく保つための機能的な働きもしてくれます。家と庭の緑を上手に計画すれば、省エネでエコロジー・エコノミーな暮らも叶います。

たとえば、日当りがいい南面の窓の外に落葉樹を植えたとしましょう。夏には茂った木の葉が強い日差しを遮り、室温の上昇を抑えてくれます。うだるような暑さの空気も、窓の前にある木々の葉を通り抜ける間に冷やされて、部屋へ取り込まれます。冬は葉を落とした木が、低く弱い日差しを部屋の奥へと導いて室内を暖めてくれるでしょう。

植物のチカラを最大限に生かせるよう工夫すれば、人にも地球にも優しい住環境を、より自然な形で手に入れることができるのです。 日本人は昔から外の自然を上手に住居に取り入れて暮らしてきました。土間や縁側などもその現れです。窓の外に美しい緑や庭の風景が見えれば、たとえ室内は広くなくとも、視線は遠くその先へと抜けていき、家の中の空間は果てしなく広がるでしょう。

花が咲き、葉が茂り、紅葉して、落葉する。そんな四季折々に移ろう庭の風景には心が癒されるもの。自然と共生することで、人は本当の豊かさに一歩近づくことができるのです。